金沢大学映画研究会

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アントラム解体新書(羊歯ヤモリ)

 感想編はこちら

 

kindaieiken.hatenablog.com

 

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なんか変な勘違いしてたんですけど↑みたいな人体図はレオナルド・ダ・ヴィンチの『ウィトルウィウス的人体図』で解体新書とは関係ないんですね。描いてから改めて調べて気付きました…。


感想からの続きです。感想では終盤についてほとんど触れずネタバレも避けて綴っていましたがこのアントラム解体新書ではガンガンネタバレしていきます。
今アントラムを怖がりたいなら、絶対に読まないでください。ネタバレがありすぎて、ほぼ百パーセント怖くなくなってしまいます。よろしいですね?
まずは謎の題目をざっと並べましょう。これらを扱っていきます。

 

 

 

謎を考える前に登場人物も整理しておきましょう。
・ネイサン
主人公の少年、姉と共に森へ地獄への穴を掘りに行く。愛犬のマキシンが死んでから悪夢を見るようになっている。


・ネイサンの姉
 悪夢を見る弟を案じ、マキシンの魂を救うための方法をネイサンに教え、共に地獄への穴を掘る。キャスト欄によるとオラリーという名前らしい。
・ネイサンの母
 ネイサン、オラリーの母、姉弟が地獄への穴を掘りに行ってからは回想でしか登場しない。アンバーという名前らしい。


・マキシン
 ネイサンが飼っていた犬、アンバー曰く悪い子だったため魂は地獄に落ちたらしい。


・鹿角の男
鹿の角を被った男性、会話できるかは不明であり、アイクの本にそっくりの悪魔が描かれている。ヘンジーという名前らしい。

 

・村人
ヘンジーと同じくアイクの本に描かれた悪魔そっくりの男性。カシウスという名前らしい。

 

・謎の日本人
 序盤、唐突に登場した日本人、ぬいぐるみを大切に思い、切腹を試みる謎の多い人物。ハルキという名前らしい。

・謎の二人
 本編とは関係ない映像に現れる男女。血とか出てて普通に痛そうだと思った。名前不明。


Vtuber悪魔
本編とは関係ない映像に現れる謎の人物(悪魔)、こちら側を認識している風にジェスチャーをするけどなんかVtuberっぽい。アスタロトらしい。

名前が本編でわからない奴が多すぎる。以降は判明した名前を使って書き進めていきます。

 

 

結局どういう話だったの?


終盤でアイクの本は全てオラリーの作り話だったことがわかります。それを知らず、しかし悪魔や地獄を感じていたネイサン、これは精神を病んでいたということでしょう。マキシンの死、そして母からマキシンが地獄に堕ちたと聞かされた時のトラウマが原因のものです。そんな状態のネイサンに善意からとはいえオラリーが地獄の話をしてしまい、信じさせてしまったのです。しかし全てがネイサンの幻覚による悲劇とは言えません。オラリーもまた、物語の途中で精神を病んでしまっているのです。ネイサンが地獄の第三層に来た、と告げた辺りからオラリーも妙な雰囲気を感じ取っています。本当はただの森のはずなのに。終盤、ネイサンはマキシンとは違う犬種ですが、シベリアンハスキーをトラバサミから助けて憑き物が落ちたような表情を浮かべます。そしてここでTHE ENDの文字が。アントラムの物語はネイサンが精神を病んでいるところから始まりました。ここでTHE ENDとなった意味を考えると犬を助けたことでネイサンは悪夢から解放されたのでしょう。対してⅭパート、オラリーは自分で創作したはずのケルベロス(犬)を恐れて精神的に限界を迎えてしまっていました。

これは…、どういうことなんでしょうね?


アイクの本のあれやこれ

アイクの本自体はオラリーの創作地獄解説書です。ケルベロスや悪魔の説明が挿絵と共に載っています。完成度が高すぎてネイサンの幻覚障害に一役買っていることは間違いないでしょう。しかし、この本に載っている悪魔そっくりの村人が存在することは一体どういうことでしょうか。これは、村人や村の光景自体がネイサンの幻覚フィルターを通したものになっているんだと思います。というより地獄への穴を掘り始めてからの本編映像ほぼ全てはネイサンの幻覚のフィルターを通っている、と考えても良いかもしれません。
また、穴を掘る前に行っていた儀式ですが、五芒星の各先端に様々な宗教のシンボルを置いていました。一つはキリスト教のキリスト、一つは仏教の布袋、一つはイスラム教の三日月、もう二つがよくわかりませんでしたが恐らくなんらかの宗教のシンボルなのでしょう。(地獄の概念がある宗教とするとヒンドゥー教あたり?)この宗教が統一されていない部分も創作儀式であることの伏線だったんですね。
アイクの本には地獄の階層の名前が載っています。それぞれ第一階層はNEFASTUS(邪悪)、第二階層はMALIFICUS(悪党)、第三階層はDEMONIUM(悪魔)、第四階層はINCARNATUS ÐEST METUS(受胎への恐怖)、第五階層はABYSSUS(深淵)となっています。おそらくラテン語ですが、浅学のため翻訳があっているかはわかりません。ラテン語に詳しい方はぜひアントラムを読み解いてみてください。

 

地獄への穴ってなに?


掘り進めると薬のケースや拳銃が出てきたこの穴、なんなんでしょう。これ、人類文明の進化を表しているんじゃないかと思います。いやそんなこと言っても地獄への穴もアイクの本と一緒で作り話だったんじゃないのかよ、と言われてしまえばそれまでですが…。宗教のシンボルを基に掘り進めて悪魔が現れ始め、銃が出てきた辺りで悪魔が人の姿を取り始めた。これは文明の進化とそれに伴う悪魔の変化を表している、と言われるとそんな気がしてきますよね?

 

村と村人の正体は?


 オラリーが村人について言及しています。「ハンターに見つかる。」村人はオラリーからは猟師に見えたようです。確かに森の中の村でシカを殺したり解体したりしているのは猟師でしょう。ではあのバフォメット像は?その中で焼き殺されていた日本人は?という疑問が浮かびます。バフォメット像に関してはそういうネイサンの幻覚だった、と考えましょう。また、バフォメットは異教の象徴でもあるため、理解の及ばない何か、という変換でも構わないです。問題はバフォメットに隠されて何が行われていたか。それは人攫いです。ネイサンはバフォメット像に入れられた後、真っ黒になって出てきました。普通に考えれば煤で黒くなっているわけですが、この黒は奴隷の意味を含んでいると考えました。猟師がシカを狩る傍ら、自殺の名所として有名な森に入ってきた人間を誘拐して奴隷商人に売りつける。そんな異常な行為がネイサンからは異教のバフォメットに見えたのではないでしょうか。そう考えると序盤の日本人の切腹にも森が自殺の場所であると示唆する意味があったのかもしれませんね。

 

 

半裸の日本人


とりあえず日本語部分を書き起こしました。
「向こう行け!見てんじゃねえよ!見世物じゃないんだよ!あっち行け!見んな行け!向こう行けこの野郎!行けよぉ…。見世物じゃ…あ、あぁ…ねぇんだよぉ…。死なせてくれよぉ…。俺にはもう何も残ってねぇ、向こう行ってくれよもう…。見ないでくれぇ…。あっあ、あぁ…。ぐすっ。はぁはぁ、ひぐっ。…許してくれんのか。…悪かったよ。」(この後英語で謝って終了。)
その後はバフォメット像の中で焼き殺されているような描写が入るだけでぬいぐるみを持って何をしに来たのかはわからず迷宮入りとなってしまいました。やっぱり森が自殺の名所ということを表すためだけに出てきてくれたんでしょう。

 

サブリミナルの映像と悪魔


 度々現れるサブリミナル文字列や映像、そして謎のVtuber悪魔。Vtuber悪魔は本編終了後に流れる説明パートでアスタロトであるとされています。ノイズの一部にアスタロトの印章が一七〇回以上含まれるとか。そして「一緒に遊ばないか。」というメッセージを送っているらしいです。やはりVtuberなのでは…?
本編の合間合間に挟まる映像はよくわかりません。血を流している男女の悲劇のようですが、台詞がないし映像もほんの少ししかないのでちょっと難しいですね…。
また、サブリミナルの文字列を二つ発見できたのでここに書いておきます。第二階層でdESCENSUS AVERNO(地獄へ落ちる準備は整った)、第四階層でPRETIOSIUS VERITATE(最も貴重な真実)、という文字列でした。翻訳があっているかはわからないし意味も第四階層の方がよくわかりませんね。もっとたくさんのサブリミナルテキストがあるのかもしれませんが、正直これを探すのはしんどいのでギブアップです。

 

アントラムの呪いって…


 感想の方で散々怖がってきたアントラムの呪いですが、はっきり言って存在しません。というか感想の方でも少し匂わせてましたが映画祭の死亡者三名はアントラムのサイトしか引っかからないし、その他の逸話もありません。そもそもアントラムは色彩をセピアっぽくしたりコマ撮りを使ったりして古い映画っぽく撮っていますがキャストの年齢から普通に最近撮られた映画であることがわかります。つまりアントラムはフェイクニュース、フェイクインタビュー、フェイク撮影年代で作られたスーパーフィクション映画だったわけですね。これでオニダルマオコゼに刺される心配はなくなりました、よかったよかった。

 

・あとがき


本編は大体考察できたかな、という感じですが本編外の要素が全然わかりませんでしたね…。ただ村人の辺りの考察は個人的に納得がいくところまで考察(妄想)できたので満足です。


さーて、考察もできたし映画.comでアントラムの評価でも見るかな…。

 

 

星二つ!?!?


個人的にはもうちょっと評価高くてもいいんじゃないかな、という思いです。
終わり

 

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